「ぷ。超ウケる」
となりから声がした。ぱっと隣を見ると、同じ年くらいの女の子がずぶ濡れの私を見て笑っていた。
「ねえ。あんた、あーしのこと、分かる?」
分かるも何も……。というか「あーし」って、「あたし」の意味でいいのだろうか。しかし、今はそんなこと問題ではない。おかっぱ頭に赤いリボンのカチューシャ、黄色いスカート、手にはりんご。この女の子はどこからどうみても、あの有名な、
「白雪姫さん、ですよね」
私は混乱する頭を必死に整理し、そう言った。
「あたりぃー。ねえ。シンデレラ、あんたボケッとしすぎだかんね。せっかく湖のド真ん中からあーしが出てくるっつーパフォーマンスしてやったのにさぁ、あんた、あーしじゃなくてずっと水しぶき見てんだもん。ロマンチストなお姫様かって!!まあ、そのうちマジでお姫様になんだけど。あ、ヤバい。今めっちゃウケること言ったわ。ハハハ」
「は、はあ……」
私は呆然としていて、よく分からない返事しかできなかった。
「ねえ。あんたのそのキンパツ、地毛?」
「は、はい……」
「いーなー。あーしもブリーチしてえなー」
そう言って、白雪姫は自分の漆黒の髪を指でいじった。
―――何、これ。こんなの今までのシナリオにない。どうしてシンデレラの世界に、白雪姫が出てくるのだろうか。というか、あの登場の仕方、パフォーマンスとか甚だしく迷惑なんですけど。いや、その前に、彼女ものすごいギャル言葉なんですけど。白雪姫っておしとやかキャラじゃなかったっけ?
次から次へと疑問と苛立ちが溢れてくる。
「とりま、よろしく!」
疑問と苛立ちの波を遮るかのように、白雪姫は私の肩をポンと叩いた。