小説

『APPLE SOUR』月崎奈々世(『シンデレラ』『白雪姫』)

「あんた、白雪姫のエンド知ってるっしょ?王子との結婚式を邪魔しに来たババアに、鉄の熱いクツ履かせて死ぬまで踊らせるっつー、ガチでヤバいやつ」
「ああ……。本で読みましたよ。むごいですよね」
「いい気味って思いながらも、心のどっかであーしは泣いてたよ。こんなのちげーよって。だから決めたんだ」
そこまで言って、白雪姫はパッと私に背を向けた。肩が震えていた。泣いているのかもしれない。
「あのクソババア、昔はちょっとマシだった。やさしい時もあったんだ。でも、あーしが成長するにつれて笑わなくなってさ。……だからいつか有名になって、あいつを笑わせんだ。そんで笑いまくって心臓マヒ起こさせて死なせてやる。マジで覚えとけよ、あのババア。これがあーしの夢と、復讐だかんね」
私は胸がいっぱいになって、白雪姫の小さな背中を抱きしめた。
そして、白雪姫の口調をマネし、
「あんたなら、絶対イケるっしょ」
と言った。
白雪姫は鼻をすすりながら、「ぷ。超ウケる。あんた、やっぱ意外とギャグ線高いわ」と言って笑った。

 
***

 
エピローグ ~21××年。どこかの国の女の子達の会話~

「ねえ、おとぎ話では誰の物語が好き?」

「私はシンデレラ。だってすっごい頑張って、お城でお料理作る人になるって夢を叶えたんだから。しかも、お料理を食べた王子様がシンデレラのことを好きになって、最後は結婚したんだもん。……あ、実はシンデレラと王子様は、過去に一度、舞踏会で出逢っていたっていうエピソードも素敵だよね。エミは誰の物語が好き?」

「私は白雪姫が好き。超美人なのに、世界的なコメディアンってギャップもいいし。それに、舞台を観にきていた王子様にプロポーズされたのに断って、ずっと側で支えてくれた付き人と結婚したんだよ。白雪姫、素敵だよ。イジワルだった継母も、最後は白雪姫の出る番組を全て録画して観てたって話じゃない。ごめんね、ごめんねって笑いながら泣いて……」

 人生を切り開くのは自分自身であること、そして幸せの形はひとつではないことを、今日もシンデレラと白雪姫は、今を生きる人々に語りかけている。

 
「……女の子達の、永遠の憧れだよねー……」

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