もしかしてお腹が空いたのかな、と思い、私はポケットに入れていた飴玉を取り出そうとした。しかし、取り出す前に白雪姫が口を開いた。
「あーし等は自分の力で一歩踏み出すことができた。だから……」
「……だから?」
「もう会う必要はないよな」
白雪姫はあっさりと言ったけれど、表情は少しさみしそうだった。
遠くの方で鳥の声が聞こえる。夜は、もうすぐ明ける。
6、それぞれの道
「じゃ、そろそろ行くわ」
白雪姫は大きなあくびをしながら言った。空はすっかり明るくなっている。
私は胸がチクチクと痛み、気を緩めると「たまには会って話しましょうよ」と言ってしまいそうだった。でも、次に会うのは、お互いの夢が叶ってからだ。それまでは、ひたすら歩き続けなければならない。私達にはもう、素敵な王子様と結ばれる未来も、温かいお城で過ごす日々も保証されていない。今日から冷たい孤独が待っているかもしれない。わんわん泣いてしまう日もあるかもしれない。でもきっと大丈夫。辛い時はふたりで喋った日々のことを思い出そう。そして苦しい時も、笑っていよう。できるだけ笑いに変えよう。
変わる一歩を踏み出すことよりも、その後の二歩目以降の方が大事だということを、白雪姫も私も分かっている。
「……あ」
白雪姫は何かを思い出したかのように言った。
「あーしがお笑い極めたい本当の理由、教えてあげよっか」
「え?大きな舞台でウケることやりたいとか、闇を笑いに変えたいとか、そういう理由じゃないんですか?」
そう言うと、白雪姫は首を振った。
「もちろん、そういうのも理由のうちのひとつ。でも……。あーしがお笑いやるのは、あのクソババアを復讐するためなんだ」
―――え。継母?