小説

『APPLE SOUR』月崎奈々世(『シンデレラ』『白雪姫』)

 ――りんごサワーを飲みながら、さっき王子様の前でガラスの靴を割ったことを話すと、白雪姫は興奮した。
「マジで?? あんた大胆だね。いや、見直したわ。マジでリスペクトだわ」
「白雪姫さんは、どうなりました? 継母さんが魔女に変装して毒リンゴを持ってきたのって、確か昨日でしたよね?」
「あ、あーし?聞きたい?最強だよ?なんと、毒リンゴ食べると見せかけて、ババアのツラに思いっきりリンゴ投げつけてやったんだかんね。そのあと怒り狂ったババアに追っかけられて殺されそうになったけど、ここで死んだら元も子もねえと思ってガチで逃げた。リアル鬼ごっこだったわ」
 私はお腹を抱えて笑った。きっと怖かっただろうに、白雪姫が話すとネタみたいな笑い話になる。辛いことや苦しいことを笑いに変えられるのって、すごいことだと思う。白雪姫は、きっと良いコメディアンになれるだろう。私はそう信じている。

「で。あんた、これからどーすんの?」
 白雪姫と私はスカートをまくしあげて、湖に脚をひたしながら話をしていた。
「とりあえず、明日にも家を出て、レストランに住み込みで修行をさせてもらおうかと思っています。料理だけじゃなく、掃除や雑用仕事もお安い御用ですから、どこかしら拾ってもらえるんじゃないかと思って」
 そう言うと、白雪姫は「あんたなら、絶対イケるっしょ」と自信満々に返した。
「……白雪姫さんは、これからどうするんですか?」
「あーしはねぇ、一週間後にお笑いグランプリがあるから、それに出てみるんだ」
「へえ。すごい!」
「……んー。なんかさー、シンデレラって結構ツッコミ冴えてたから、コンビ組んだらイイ線行くと思ってたんだよねー。ねえ、どう?あーしと組まない?」
 白雪姫は目を輝かせて言った。
「お断りします」
 ひかりの速さで拒否した。
「ちぇ。わーったよ。ピンで頑張るわ」
 白雪姫はしばらくぶちぶち言っていたが、急に黙り込んでしまった。

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