小説

『APPLE SOUR』月崎奈々世(『シンデレラ』『白雪姫』)

1、ふたりの出会い

 私はシンデレラ。
 正確に言えば、シンデレラ(五回目)だ。おとぎ話の主人公は、幾瀬の人間に夢を与え続けるという使命があるため、何度も同じ人生を繰り返さなければならない。継母や継姉にいびられ、舞踏会でガラスの靴を落とし、王子様と結婚して、王妃としての人生を歩んで死ぬ。そしてまた生まれ、継母や姉にいびられ……。この繰り返し。
 来月は舞踏会だ。その日の夕方に謎の魔法使いが現れて、人生を変えてくれる。あと数か月後には、私は灰かぶりの少女ではなく、宝石を身にまとうお姫様になっているのだ。
すべて、分かり切ったこと。

 ある日。継母と継姉たちは、舞踏会で着る新しいドレスを仕立てに出掛けた。私はひとり掃除を済ませ、きゅうりのサンドイッチを作って湖のほとりへ行った。原っぱには、ピンク、水色、うすむらさきの花が咲き乱れ、湖は太陽のひかりが反射してキラキラしていて、私はこの場所で昼食をとるのが好きだった。鳥の声ときゅうりを噛む音が心地良い。いつも通りの時間――――の、はずだった。
「あれ?」
 突然、湖からゴゴゴ……という音が聞こえてきた。心なしか、地面も振動している。地震? シンデレラは焦ったが、このおとぎ話の中で大きな地震は起こるはずがないと思った。だって、天災が起こったら舞踏会も中止になるし、それ以前に私が死んでしまったら「シンデレラ」としての一生をまっとうできない。おとぎ話の世界で、予定違いのことは起こるはずがない。自分にそう言い聞かせた。
 しかし、ゴゴゴ……という音は次第に大きくなり、湖の真ん中はへこんでいく。そして、へこんだと思ったら今度は噴水のように大量の水が空高く舞った。私は何も考えることが出来ず、口をぽかんと開けてこの状況を見ていることしかできなかった。
 水しぶきはガラス玉のようにキラキラ、キラキラと空で踊っている。しかし重力には勝てないようで、何秒もしないうちに勢いよく私に降りかかり、ずぶ濡れになってしまった。

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