小説

『父ちゃん』想(芥川龍之介『父』)

 参観を終えての帰り道。サリーは、いつものように私の手につかまって、ブラブラと左右に揺れながら歩いていた。
「ビックリしたねえ、父さん」
「そうだな」私は答えた。「なかなか賑やかな参観日だったな」
「椅子がこっちに飛んでくるかと思った!あの子があんなに怖い子だなんて、全然知らなかったよ」
サリーは、椅子を持ち上げる真似をしてみせた。私は笑った。
「ねぇ、タハのことはどう思った?いやなやつでしょう」
「うん?そうだな…」
 私は、しばらく考えてから、答えた。
「いやなやつかもしれないし、そうでないかもしれない。新しい学校は、なかなか面白そうなところじゃないか。それが分かったから、今日、来てみてよかったよ」
 サリーは、私の顔を見上げ、悪戯っぽく目を輝かせて、ニッと笑った。
 私たちは、海に沈む夕日に照らされながら、ゆっくりと家路をたどった。

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