「あの時、他にお客さんが並んでたからさ。なにも言えなくて。でもあれからぱったり寄ってくれなくなったでしょ? 気になってたんだよね。探してたんだ。人が集まるところだったらもしかしたら会えるかもしれないって思って、街のイベントに参加してみたりもしたんだけどなかなか……そりゃそうだよね。この街コンに参加したら忘れようかなって。そしたらカウンターにぽつんと座ってるの見つけてさあ、もう口から心臓が出そうだったっていうか」
そう歯を見せて照れくさそうに笑う。僕は驚きのあまり口を閉じることができない。
「……えっえっ? まじで? 随分雰囲気違うし……えっ? 僕を探してた? でっでっでも、僕はあんなことを言ってしまうような男だし……えっ? ほんとに?」
僕は彼女から距離をとるように、スツールに僅かばかりある背もたれに気持ちのけぞる。彼女は肩をすくめて、
「でしょ? 私だって人のこと言えない。仕事だからがさつなところが出ないようにあんな感じを装ってるけど、実はこんな感じだし。お酒が好きで、酔っ払ったら馴れ馴れしくなるし。ていうかね? 大体、遅刻しそうな距離のコンビニ寄るくらいなら、うちのコンビニ寄ってくださいよ。もう」
ふふっと僕の肩を軽く叩いて笑う。彼女はワンピースの花のように鮮やかで、他の誰とも似ていなかった。
「なんつって。こんな私でがっかりした? お酒飲むと馴れ馴れしくなるのは嘘じゃないの。でもごめんなさい、今日は正直飲み過ぎてます。お酒飲んで勢いつけないと話しかけられなかったから……」
彼女は慌てふためく僕に不安になってきたのか、尻すぼみになりながら唇をきゅっと結び、心持ち眉根を寄せる。
確かに顔を見るまではその辺にいるただの失礼な女だと思ったから、顔を見た瞬間戸惑った。僕にポイントカードを手渡す時の彼女と確かに違うと思ってしまった。
でもこの瞬間の彼女は、僕の知っている彼女に他ならない。
「今日はレジカウンターも邪魔してないし、誰も並んでないからゆっくり話しましょう。お酒もあることですし」
いらっしゃいませ。ありがとうございました。