小説

『こんにちは、世界。』二月魚帆(『貉(むじな)』)

 僕に伝えてくれる、あの笑顔で彼女は誘う。

 『こんにちは世界』
 
 僕の論理で、宣言で、条件で、構文で。わずかに世界が動いたのが肌で感じられる。顔が熱くなる。僕はきっと、みっともないくらいに赤い顔をしている。それを間接照明によって誤魔化せている気がして、初めてこの店の間接照明に感謝する。周囲の喧騒すら、僕の世界への声援に変わる。
 鮮やかな彼女に些か、いざよいながら。僕はこの飛び込んできた鮮やかな色で僕の世界を染め始める。

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