「こんなブスのどこがいいのよ!?」
それからマユミは、テーブルに残ったポテトを一本摘まみ、それを口に入れてアヤに言った。
「ブスブスブス!」
ヒールを鳴らしながら、マユミが出て行った。
たった一日で二人と別れられた。余りにも簡単に事が運んだため、結城は急にDカンパニーに支払った金が惜しくなってきた。相棒の女を探せば自分でもできたかもしれないという考えが、湧き上がってきたのだ。「Dカンパニー」も所詮裏稼業だ、と考えると必要以上の金を払ったような気になった。
アヤの活躍を見て、急に興味が湧き上がった。マユミと別れた後、結城はアヤを誘った。一緒に飲むだけだと言ったが、彼女の返事は「規則で禁止されてます」とそっけなかった。
六本木で別れた後、結城はこっそりアヤをつけた。アヤは尾行されるとは思っていないようだ。一度も後ろを振り返ること無く、自分の家に帰っていった。
そこは駅から5分ほどの所にある白いアパートだった。
「けっこうおしゃれな所に住んでいるな」
場所を確認したらすぐに帰るつもりだった。だが結城はアヤをもっと知りたいという想いを振り切ることができなくなっていた。あれほどの大金を払ったのに、思った以上に関単に決着がついた。何かの形で取り戻したいと思った。
玄関のベルを鳴らす。中からは何の反応もなかった。再度ベルを鳴らした。暫くして中からドアが開いた。呆れた表情で結城を見ているアヤが立っている。
「こんなことをするとは! 契約を解除しますか?」
「いや、そうじゃなくて君のことがもっと知りたくて、つい」
アヤは結城の言い訳を一通り聞いたふりをすると、諦めたのか「どうぞ」と招き入れた。
だが、結城はアヤについて更に驚くことになった。リビングにベットが置かれ、隣りに小さなキッチンとバスルームが付いている部屋だった。女ひとりでは十分な広さがある。だが、リビングの部屋一面に洋服、バック、ヘアピースや化粧道具までが散乱していた。これはいわゆるゴミ屋敷といえた。床が見えなかったのだ。
言葉がでない結城にアヤは平然と「茶もないけど」と言った。そして床の一か所だけ服をどかした。座るスペースを確保してもらった結城は、無言で僅かに見える床の上に腰を下ろした。