「まって、金、入れるから」
取り澄ましてありったけの小銭を投入口に入れると、びっくりするくらい甲高い声でガイドが入った。
――三秒経ったらハイチーズ! 準備はいいかな――
「いい?」
「うん」
頬をほんのり上気させている彼女に胸キュンさせながら、俺はなんとかそれっぽいボタンを押した。ATMだって使えるんだから、これくらいできるはずだ。
――さん・にぃ・いちっ!――
パシャリ。大げさにシャッター音がする。
――撮り直しますか!?――
いちいち大声で確認される。画面には不器用にほほえむ俺の横に、天使のような彼女が写っている。結局三回フルに使って撮り直した。彼女のらくがきが終わるのを待って、プリントボタンを押した。
「ああ、緊張したね」
彼女はそう言って、上気した頬を手であおいだ。確かにのれんに囲まれたプリクラブースは暑苦しい。彼女の黒髪が形の良いおでこに張り付いているのを見て、ムラムラするのを抑えきれなかった。バッグを腰の前に持ってきて、壁のポスターを眺めながらプリクラのシールが出てくるのを待つ。
「出たよ~」
たったそれだけの言葉にも、バカみたいに敏感に反応してしまう。バカバカ、マジでバカ、ヘンタイ! 自分で自分を罵倒して、引きつりながら笑顔で振り返る。
と、彼女の表情が不穏なものだということに気づいた。プリントアウトされたシールをまじまじと見つめて、眉を寄せ、唇を歪めている。
「エ、ナニ、これ……」
彼女がようやくそれだけの単語を振り絞り、俺は特に何とも思わずにシールをとった。彼女は「あっ」と言っただけで、取り返そうとはしない。
プリクラの写真は三回撮って、一番いいやつを選んだ。半目とか変顔なことはないはずだ。そう思ってプリクラを見て、息がとまる思いをした。