小説

『No Face』植木天洋(『狢(むじな)』)

 え? なんの冗談?
 「どゆこと!?」
 「ん? 顔。あたしの」
 「顔写ってないよ」
 「えー、ちゃんと写ってるよー」
 「だってこれ……加工でしょ」
 「ひどいー いくら盛ってるからって」
 プンプン怒っているスタンプを連続で送ってきた。彼女の写真をもう一度見る。眼も鼻も口もない。メイクも何も、これじゃ盛りようがない。それとも特殊メイクか何か? それにしては出来過ぎてるぐらいに自然だ。肌色の面にはなんというか、ちゃんと皮膚としての質感があるのだ。なんとも奇妙な感じだ。
 「え? いたずら的な?」
 「なんのことー?」
 彼女はあくまでとぼけるつもりだ。もしかして、毎回知らない相手とLINEをして、顔写真を求められるたびにこのふざけた画像を送りつけているのか? 幼稚ないたずらだ。そう思うと盛り上がった気分が急に冷めてきた。
 「もういいよ。眠くなったからおちる。おやすみ」
 「えー、もう?」
 彼女が同じ言葉を何度か送りつけてきたが、すべて無視した。最後にはあまりにもうっとおしくてスマホの電源を切った。全く。変わったやつもいるもんだ。それくらいに考えて、その日は風呂に入って寝た。
 翌日、学校の教室はある噂で持ちきりだった。
 「顔のない自撮り送ってくる女子がいるんだって!」
 その一言でピンときた。あいつ、やっぱりいろんな奴に同じことやってるんだな。腹が立つやら、情けないやら、自分の机にくたびれたバッグをどさりとおいた。隣の席のタカシが早速話しかけてくる。
 「なあなあなあ、きいた?」
 「顔のない女子」
 「それ! なんだ、知ってんのかよ、つまんねー」
 「ていうか、昨日、そいつとLINEしたし」

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10