「マジかよっ」
体育系の彼の声は教室中に響いて、休み時間の暇を持て余した高校生の注意をひくには十分だった。教室中の人間の目が一斉に突き刺さる。
「声でけぇよ」
「どんな奴だった?」
好奇心丸出しの同級生の顔を精一杯あきれた風に睨みつけてから、自分のスマホを取り出した。LINEを立ち上げて、昨夜のログを見せる。
「うおー、マジだ、マジだ」
彼女が送った写真を見て、大興奮している。こいつのこういう子供っぽいところ、苦手なんだよな。そう思いながら、野次馬の間で行ったり来たりする前に素早くスマホを取り上げた。
「マジで顔ないじゃん!」
「どうせなんかの加工だよ。幼稚ないたずらだよ」
「おまえ、のろわれるぞ~」
タカシは肘を曲げて両手をぶらりとつきだして、精一杯低い声を震わせる。一体なんのジェスチャーだ? 幽霊だか悪霊だかの真似をしているのだろうけど……まあ、親父もたまーにそういう仕草をするけどね。奴の頭の進化はきっと一昔前で止まっているに違いない。
「昭和かよ。女子のスッピンの方がよっぽどホラーじゃねーか」
「へへ、まあそうだな」
気楽な奴は鼻をつまんで屈託なく笑う。鼻をつまむのは、照れた時の癖だ。何に対して照れたのかは、別に知りたくはない。そういえば最近気になる女の子のスッピンを見たとか言って騒いでたな。わかりやすいやつ。
「でもこれ、ほんとに気をつけろよ」
「なに、マジになっちゃって」
「こういうの、ガチでヤバイって言うじゃん」
「んなわけあるか」
俺が軽く坊主頭をはたくと、奴はヘラヘラと笑った。
「なーんちゃってねー。んなわけないか」
「ねーよ」