気がつくと、カムパネルラは布団の上にいました。まだ、涙で目元が濡れているのがわかりました。ああ、本当に夢だったのか、そう思うのと同時に、表しようのない気持ちで体を起しました。するとお母さんの足音がしたので、慌てて涙を拭いました。
「カムパネルラ・・・あなた、今日は学校、どうしましょうね?」
お母さんが窺うようにそう言いました。
「僕、行くよ」
カムパネルラはすぐに答えました。するとお母さんは少し嬉しそうな声になりました。
「そう、そうなの、では仕度しましょうね」
げた箱で靴を履き替えると、カムパネルラはお母さんに帰るように言いました。
「でもあなた・・・」
「いいの。僕大丈夫」
カムパネルラに強くそう言われ、お母さんはしばらく心配そうにしていましたが、やがてカムパネルラの手を離しました。
「本当に大丈夫?」
「大丈夫。さぁ、お母さん、もう行って」
お母さんの足音が遠ざかって行くのを確認してから、カムパネルラは階段へ向かいました。教室は二階なので、階段を登らなければなりません。近頃休みがちだったこともあり、やはり家の中の様に上手くはいきません。何度か躓きそうになって、やっと階段に辿り着きました。そのとき、同じクラスの女の子のコネリの声がしました。コネリは席が隣なので、今まで何度も手伝ってもらったことがありました。カムパネルラは勇気を擦り絞って声をかけました。
「ねぇコネリ、悪いんだけど手伝ってもらえる?」
そう言われてコネリが躊躇しているのを感じながら、カムパネルラは待ちました。しばらくしてコネリは、何も言わずにカムパネルラの手を取りました。その手は、恐る恐る何かをつまんでいるような、家族以外がいつもカムパネルラにするような感じでした。カムパネルラはやはり、また少し傷つきましたが、青年の言葉を思い出して、そのまま教室へ向かいました。二人ともずっと黙ったままいたので、教室へ着くまでに、周りから笑われているのがよく聞こえました。誰かは遠くから、「奥さん大変だねぇ」なんて大声でからかいました。そのときにコネリの手が熱くなったので、ああ、怒っているのだ、恥ずかしいのだ、とカムパネルラはコネリに悪いような気になりました。
席に着くと、コネリは直ぐに行ってしまおうとしたので、カムパネルラはコネリの手を少し強く握りました。
「何よ?まだ用があるの?」
コネリは怒った様にいいました。