小説

『パーティ』大前粟生(『灰かぶり姫』)

 わたしたちがママに連れられてあの子とあの子のパパの家にやってきた日から、わたしたちはあの子と仲良くした。火をわたしたちの方に向けて、たばこをあの子に入れてやった。あの子はそれを気にいったみたいだった。あの子の毛の先が焦げて、皮膚がてらてらと光り出す頃に火が消える。あの子自身がたばこを濡らす。今ではあの子、わたしたちに隠れて自分ひとりでたばこを入れることさえある。一度に何本も入れることさえある。二十本も入れちゃうと、あの子がいくら濡れてもだめみたい。火はなかの襞に触れるまで消えない。あの子のなかから火の消える音がすると同時に、あの子は痙攣して気絶する。しばらくするとあの子は夢遊病みたいに起きて、窓の外の木にお願いをする。わたしもパーティにいけますように。わたしもパーティにいけますように。あの子がパーティというときの発音はパーティではなくてパーティだ。わたしたちはそれをクローゼットのなかから見ている。
 わたしたちは列に並んでいる間も、余裕を見せなければならない。わたしたちは前後ろに並んでいる人たちや、横を通っていく人たちに話しかけて、寝室にいくのを心待ちにしていると悟らせないようにする。わたしたちに話しかけられた人は、それだけでもう舞い上がってしまうから、わたしたちは適当なことをいっていればいい。
「それ、素敵なドレスですね」と、服飾部の異端児がいった。
 わたしたちはあの子のクローゼットのなかを探索するのが好きだ。別に、クローゼットの向こう側に別世界があるとかそういうことではない。おとぎ話とはちがう。わたしたちはあの子の服を漁る。普段のあの子は、コンビニくらいまでは上下グレーのスウェットでいく癖に――前のお母さんに買ってもらったんだろうな――けっこういい服を持っている。わたしたちが着ているギャルソンも、あの子のものだ。いつだったかの秋冬だ。
 先は長い。わたしたちはいつしかたばこの煙に覆われている。まるでベールに包まれているみたいだ、とわたしたちは少しいい気分でいる。と、ベールが引き裂かれた。嫌煙部のダークホースが煙を手で払ったのだ。脇には空気清浄器を抱えている。ベールが剥がれ、わたしたちの顔があらわになると、ダークホースの顔から血の気が引いた。ダークホースは土下座しようとしたけど、もう遅い。わたしたちに憧れる女の子たちがダークホースを取り囲んでぼこぼこにした。
 あの子は鳥好きとしてわたしたちによく知られている。あの子はよく庭の木の前で鳥と話している。鳥といっしょに歌っている。

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