小説

『パーティ』大前粟生(『灰かぶり姫』)

ごらん
大足の女の
靴は血まみれ
ほんとうの花嫁は家にいる

 その人がわたしたちに近づいてくる。それどこのブランドのドレスですか? と服飾部の異端児が聞くよりも早く、彼女の両肩にとまった鳩が異端児の目をつつきだした。
 その人はわたしたちを見て笑った。わたしたちは天にも昇る気分だった。その人の美しい顔、そしてなんといっても、歯に付けられた銀の細いベルトの輝きといったら! わたしたちはひざまずいた。あなたこそ生徒会長にふさわしい。その人はわたしたちのたばこを取って、わたしたちの頭に灰を落としてくれた。その人はわたしたちのドレスを剥ぎ、赤く燃えるたばこをわたしたちに入れてくれた。おお。
 その人が生徒会長の寝室の暗やみへと入り、ドアを閉めた瞬間、またなにもかもが動き出した。エレクトロニック・ダンス・ミュージックは祈りの音楽になって、わたしたちはみんな、頭を垂れながら手と手を繋ぎ合って歌を歌った。

枝をゆさぶれ、はしばみよ
金と銀とを投げ落とせ

ごらん
大足の女の
靴は血まみれ
ほんとうの花嫁は家にいる

 だれかの腕時計から、アラーム音が聞こえてきた。十二時はとっくに超えていた。その人がきてからは、アラーム音さえ荘厳に聞こえる。長く続いたアラーム音がやむと、それが合図のように、大量の血が寝室から漏れ出てきた。赤色は海のように広がり、いくつもの羽がどんぶらこどんぶらこと泳いできた。血はやむことを知らず、洪水になり、会場を支配した。だれかが雪みたいに白い粉をぱっと舞い上げた。わたしたちはしあわせだった。でもそれは唐突に終わる。聞き慣れた音が、祈りを突き破って耳に飛び込んできた。パトカーのサイレンの音が。

1 2 3 4 5 6 7