小説

『パーティ』大前粟生(『灰かぶり姫』)

枝をゆさぶれ、はしばみよ
金と銀とを投げ落とせ

 コーラス部が去年金賞を取った、とてもキャッチ―で親しみやすい曲だ。意味はよくわからないけど。
ゴスペル部がひとり、またひとりと気を失っていく。アカペラ部はずいぶん昔に全員担架に乗せられて運び出された。DJの風紀委員長はいつの間にか退場し、音楽はパソコン部のマックから流れている。コーラス部はまさに今、保健体育委員長の手によって喉を人工のものと取り換えられながら、この場にボーカロイド部がいなくて本当に助かったという顔をしている。
 わたしたちはあの子が鳥といっしょに、床に転がった豆をつついているのを見たことがある。わたしたちならぜんぶ拾うのに二時間はかかるかという膨大な数の豆を、あの子は鳥といっしょに一時間とかからずに拾いあげた。そしたら今度はあの子、さっきの倍の数の豆を床にぶちまけた。床にはあの子からこぼれた埃やフケや灰がうず高く積もっているのに、今度は豆を三十分とかからずに拾い上げた。あの子は鳥といっしょに、泣いてるみたいに笑った。こわい。
 終わることがないかに思われた行列は、着々と進んでいく。それどころか、どんどんスピードアップしている。生徒会長がスロースターターだという噂は本当だった。
 あの子はわたしたちといるよりも鳥といる方が楽しいみたいで、わたしたちはへこんでいる。あの子は鳥によくキスをする。鳥を舐める。口に入れて、一度鳥を呑みこんで、それから産むみたいに苦しげに鳥を吐き出す。あの子は本当に鳥と仲がいい。わたしたちはあの子を心配する。朝起きて、あの子が鳥になっていたらどうしよう。鶴の恩返しみたいに、あの子は実は鳥が化けてるんじゃないかとさえ思う。
 チア部の連中が生徒会長の寝室から出てきた。チア服を着てないチア部の連中なんてバカみたいだ。将棋部と囲碁部は全員で生徒会長の寝室に招き入れられたけど、あいつらは三十秒と持たなかった。わたしたちはスクールカウンセラーが紛れ込んでいるのを見つけて告発した。腕が太いことでよく知られている美術部の部長はよだれを垂らしながら出てきた。模擬国連部のやつらが強がってトイレで済ませるのをわたしたちは知っている。副生徒会長はぶつぶつひとりごとをいいながら出てきて、そのままキッチンにいって包丁を掴んでだれかを刺した。図書委員長は裸で出てきてブラで首を吊ろうとした。次はわたしたちの番だった。
 わたしたちがパーティのフライヤーを見せると、あの子の目が今までに見たことがないほど輝いた。でもあの子は参加できない。歯科矯正をしている子がパーティにいけるわけない。わたしたちが家を出るとき、あの子は庭の木の前に佇んでいた。わたしたちのあとを追いかけるみたいに、歌が聞こえてきた。

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