小説

『白雪姫の遺言』日野成美(『白雪姫』)

 オイラたちは夜を徹して話しあいをした。白雪姫は美しすぎる宝石で、人を惑わす。だからこれまで隠しぬいてきた。でも、なんといったって――死んじまっていたんだからなあ。王子様は気狂いみたいになって白雪姫にしがみついて離れないんだ。話しかけてはほほえみ、それからどうして死んでしまっているのかと涙を流す。しかたない、こういう人になら棺をゆずり渡してもいいんじゃねえかという話にまとまった。白雪姫を愛しているならその人に託そう、何より白雪姫はもう死んでしまって何もできないし、しないだろうからなあ。
 ……あの後、オイラたちの手で魔女の女王を罰しておけばよかったのかもしれん。白雪姫が死んだときより、オイラたちは生き返ったあとに知らされたことのほうが、ずっと、ずっとつらくて悲しかった。

     4 王子の近衛兵の話

 王子様と新しいお妃様のご婚礼は華々しくとりおこなわれた。国中から貴族が、各国の王族が次々と訪れて、それはそれは見事な結婚式になった。
 花嫁のお妃様はもう見ただろう? ぞくぞくするほどいい女だ。黒檀のようななめらかな髪を背中まで流して、頬は血のように赤くて、なんといっても、雪を固めたようにかがやく白い肌。体はすらりと細くて、それでいて胸元や腰つきなんかはむしゃぶりつきたいくらいだね。王子様は今から嫉妬に困っているそうだ。無理もない、あんなにいい女なんだから。大聖堂での儀式において二人は晴れて夫婦になり、大広間でお祝いの舞踏会が開かれることとなった。
 その舞踏会でのこと、ある国の女王様の名前が呼ばわれた。――そう、白雪姫の継母の女王様だ。継母は大聖堂でやっと、継娘がこの国の王子の新しい妻になることを知ったんだ。女王は玉座につく白雪姫と王子様の前に引き出された。
 二人の美女の眼は燃えさかっていた。二人とも何も一言も言わなかった。けれどもお互いに言いたいことはわかっていたみたいだよ。白雪姫は冷酷に、自分を殺そうとした女を見下ろしていた。その憎悪が殺気が、大広間をびりびり震わすようだった。女王の顔には――負けた、という絶望が浮かんでいた。肩を大きく揺らしながらあえいで、泣きそうに顔をゆがめ、ひきつった息をしている。白雪姫はそれを見て、どこか悲しむようにほほえんでいた。王子様が側近に合図する。じゅうじゅうと音がして、異様なものが女王の前に運ばれる。

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