たしかに高木は本当によく変わった。まるで初めて出会った人のようだった。からかわれたときにする苦笑いがなければ、私は高木が高木であると認識できなかったかもしれない。街中で偶然出会っても、きっと分からなかったろう。高木だけじゃない。ここが同窓会であるという前提がなければ、記憶から引き出すことができなかったであろう人がここにはたくさんいた。私たちは同級生である、という確証が、記憶の在処を特定するのを手伝っただけだ。もちろん井田ちゃんだって、今どこか街中で出会えたとしても、きっと誰も認識できないはずだ。高木の顔を見つめる。何度見てもやはり面影を見つける事が出来ない。僅かに面影を見て取る事ができたあの苦笑いだって、本当は単に私が高木を高木として扱うために捏造しただけの面影なのかもしれなかった。あるいは現在の高木の顔から逆算して架空の少年の顔を高木の面影として重ねたのかもしれない。記憶の曖昧さとアルコールのせいか、頭がふらふらして目眩がしてくる。私は何杯のお酒を飲んだのか。憶えてなかった。私はまだお酒が強いのか弱いのかも分からないくらいの、指で数える程しかお酒を飲んだ経験がない。もしかしたら酔っているのかもしれない。そう思った。と同時に、目の前で先生と話すのに首を横に曲げている高木の顔が、私の作り上げた井田ちゃんの横顔と重なる。もし今誰かに、目の前の男が井田ちゃんであると言われたら簡単に納得してしまいそうだった。そして納得をした。目の前の男が井田ちゃんであると思うと、とんとんと小学校の頃の記憶が芋蔓を引き抜くように蘇ってくる。井田ちゃんは花壇の隅で、あるいは高木は花壇の隅で、何か土をいじりながら俯いている。私はそれを直立不動で後ろから眺めている。井田ちゃんの、もしくは高木の、姿形は鮮明に私の目に飛び込んでくるのだが、その顔と手元だけがどうしても上手く見えない。何をしているのだろう。そしてあれは高木なのだろうか。それとも井田ちゃんなのだろうか。やはり分からなかった。そしてそれを後ろから眺めている私は、一体何をしているのだろうか。井田ちゃんに、高木に、声をかけたいのだろうか。どうして私は記憶の中で、高木と井田ちゃんを重ねてしまうのだろうか。そして唐突に、井田ちゃん、と誰かが井田ちゃんを呼ぶ声がした。これは私の声か。
「覚えてますか先生、みんなが井田ちゃんの花が踊るって騒いでたこと」
美紀ちゃんの声だった。私の声ではなかった。当たり前だ。今日の私は、まだろくに言葉すら発していなかった。再び井田ちゃんが話題に上がったのは、私が井田ちゃんのことを憶い出していたせいであると、うつろな頭で無闇に錯覚をした。
「井田? ああ井田な。たしか四年生のときに転校した。そりゃもちろん、覚えているとも」
花壇を見つめる井田ちゃん、高木、を見つめている私は、四年生であった。四年生の私は、一体なにをして、なにを食べて、誰と一緒にいただろうか。これでは井田ちゃんだけじゃない。私は私が当時なにをしていたのかをすら、忘れてしまっていた。