「いいからあっち行っててよ!」
しっしっと追い払ったが、祖母は特に気にすることなく近くで掃除を続けていた。
「……うん、まあ、気にしないでおこう」
気を改めて、紫陽花に向き直る。幾重にも重なる青紫は、同じようでも全く同じ色はない。光の当たり具合によっても色は少しずつ変わってくるので、撮っていて面白い。
様々な角度から撮り続けていると、紫陽花が連なったその一角に、何やら奇妙な立て札があることに草太は気が付いた。
『どうぞご自由に盗っていってください』
やけに年季の入った木製の立て札には、そう書かれていた。
「何だこれ……」
草太は首を傾げる。お盆にここに来た時は、確かこんなものはなかったはずだ。
「ばあちゃん、これ何?」
立て札を指差しながら、草太は祖母に尋ねた。
「何って、立て札だけど?」
「バカにしないでよ。そんなの見ればわかるって。そうじゃなくて、何でこんな立て札があるのかってこと」
「そりゃあ、こうやって書いておかないと、盗んでいっていいかわからないからね」
当たり前でしょう、と言わんばかりに祖母が言う。しかし、草太にとっては何が何だかさっぱりだ。
だから、どういうこと。
草太が再び訊こうと口を開きかける前に、祖母が言葉を発した。
「そんなことより、そろそろお昼ご飯にしましょうか。ほら、おばあちゃんが用意している間に、あんたも早く荷物片付けてきなさい。あ、布団は干してあるからね。後でちゃんと取り込んでおくんだよ」
「はいはい」
次から次に飛んでくる言葉に、草太はうんざりとした様子で相槌を打つ。