全く、と憤慨しながら、自分の恋愛事情を訊き出そうとした先程の祖母の様子を思い出した。
「というか、このまま家にいたら、ずっとからかわれるだろうな……」
部屋に逃げ込む前に、「ふふふ、若いっていいわねぇ」と何やら笑い声も聞こえた気がしたが、幻聴ではないだろう。
それを振り払うかのように、頭を振る。
「……よし、逃げよう」
思い立ったが吉日だ。
草太は、もはや自分の半身と言っても過言ではないカメラを持って部屋から飛び出した。洗面所に駆け込んで急いで顔を洗い、ぱたぱたと足音を立てながら玄関へと向かう。
「あら、出かけるの?」
「ちょっと散歩に行ってくる!」
祖母への返答も雑に、靴を履いて玄関の扉を開ける。
空を仰ぐと、太陽の光に思わず目が眩んだ。
「さてと、行くか」
「ちょっと待ちなさい」
走り出そうとしたその時、祖母に呼び止められた。
草太が振り返ると、足にサンダルを突っ掛けながら、祖母がぱたぱたとこちらに近付いてきた。その手には、帽子が握られていた。
「ちゃんと帽子を被っていきなさい。夏の日差しを甘く見ていると、痛い目みるからね」
「はいはい」
適当に相槌を打ちながらも、草太は素直に祖母から帽子を受け取って深く被った。それを見て、祖母が満足そうに頷いた。
「それじゃあ、行ってきまーす!」
「いってらっしゃい」
元気に叫んで、草太は夏の炎天下へと駆け出した。