そう思うことができたとしても、それを実行することはきっと難しいことなのだろう。でも、もし自分が誰かの役に立つことができたら、それはきっと幸せなことなのだろう。
今はまだ漠然と考えることしかできないけれど、何時か自分も――。
曖昧で中途半端なものだけれど、そんな思いが自分の中にあるのは確かだった。
暫くの間、草太は思い耽っていた。そんな彼を、祖母が微笑ましそうに見つめていることに、本人は気付いていなかった。
「……ところで、あんたは好きな子はいないのかい?」
「……は?」
突然訊かれたその言葉に、草太の意識が浮上した。
何を言われたのかさっぱりわからない。鳩が豆鉄砲を喰ったような表情が、彼の顔に浮かんでいた。
「今、何て言った?」
「だから、好きな子はいないのかって」
「い、いるわけないだろ!」
再び言われた言葉を漸く理解した草太の顔にかっと熱が集まる。耳まで真っ赤に染めた彼を見て、「いるんだね」と祖母がにやりと笑った。
「別にいないって!」
「照れない照れない」
「照れてないし!」
「まあまあ、そんなに声を荒げなさんなって。……それで、あんたの好きな子はどんな子なの?」
「だからいないって!というか、何でばあちゃんと恋愛話しなくちゃいけないんだよ!」
面白そうに笑う祖母に、草太は怒鳴る。けれど、祖母はその言葉をどこ吹く風と聞き流した。
「喋ってしまった方が楽になるよ。ほらほら、人生の大先輩に打ち上げてごらんなさい」
「いや、喋んないから!」
引き下がろうとしない祖母に草太は勘弁してくれと頭を抱える。
ああ、もうたまったもんじゃない。何で女って奴は、どの年代でもこういう色恋沙汰の話が好きなんだよ!
草太は、心の中で悪態を吐いた。
取り敢えず、さっさとこの場から立ち去ろう。
そう思って、急いでご飯をかきこんだ。少々咽ながらも最後にお茶を飲み干して「ごちそうさま」と告げる。「お粗末さまでした」と祖母が言い終える前にがばりと立ち上がって、食器を流し台に置いた。そして、逃げるように自分の部屋へと逃げ込んだ。
「何にせよ、安易に紫陽花を盗んじゃいけないよー。他所様の家から勝手に花を盗って来るのは窃盗罪になるからねー」
「そんなことしないよ!」
廊下伝いに響いてきた声に、草太は部屋の中から叫び返す。