「うーん、そうだねぇ……確か真っ白な着物を着ていたよ。自分で『これじゃあまるで幽霊みたいだわー』って思ったからね」
「へ、へえ……」
ふふふ、と笑う祖母の笑顔と、夢の中で見た少女の笑顔が重なった。
何処かで見たことがあるなぁと思ってはいたが、草太が見た夢の中に出てきたあの少女は、よくよく思い出してみると確かに祖母に似ている。いや、似ているのではなく、祖母本人だったのだ。
そして、草太ははっと息を呑んだ。
昨日自分が撮ったモノは、紫陽花と立て札と――そして、祖母だ。
「じゃあ、あれは、ばあちゃんだったのか……」
予想が確信に変わり、絞り出すように草太がぼそりと呟く。
「ん?どうかしたのかい?」
「い、いや、何も」
誤魔化すように卵焼きを掴み直して口の中に放り込む。そして、訝しそうに自分を見つめる祖母に、変に思われないように話題を少し変えた。
「それで、あの立て札は何時作られたのさ?」
「ああ、そう言えば、立て札の話をしていたんだったね。ばあちゃんが紫陽花を盗んだ後、これだと本当に紫陽花を盗んでもいいかわかりにくいよって言ったら、おじいさんが『どうぞご自由に盗っていってください』なんて書いた立て札を作ったのよ。それで、この時期になったら立て札を立てるようになったの」
「ずっと立てておけばよくない?」
「ずっとは無理よ。何たって、この世の中は物騒だからね」
今も昔もそれは一緒ねと、祖母はしみじみと頷く。そして、真っ直ぐ草太の目を見つめた。
「あんたも、誰かのために何かしたいと、そう思える人になりなさいね。大きなことじゃなくて、小さなことでもいい。大勢じゃなくて、ただ一人のためでもいい。そう思って、行動することが大切なんだからね」
祖母の手が伸びてきて、草太の頭をゆっくりと撫でる。その手はとても温かかった。
――誰かのために何かをしたい。