ふと目を開けると、草太は家の門の前に立っていた。立派なその門は、間違いなく祖母の家の門だ。
空を仰ぐと、何ものをも飲み込みそうな闇が広がっていた。そこには、幾つもの星が瞬いていて、大きな月が静かに世界を照らしていた。
「……ああ、またか」
夢の中のようにふわふわしているけれども、はるかに鮮明に感じられる空気に、これが普通の夢でないことを察する。
写真を撮り始めた頃から、こういう風変わりな夢を見ることは度々あった。
やけに現実味を帯びていて、本当にその場にいるかのように感じられるそれが、どうやら自分が撮ったモノに纏わる記憶なのだと気付いたのは、つい最近のことだ。
目の前にある祖母の家の外装が今と多少違うことや、周りの景色の様子、そして、これまでの感覚から推測するに、今自分が見ているのは、過去の出来事に違いない。
「たぶん、今日撮った紫陽花か立て札に纏わる記憶なんだろうけど……何時の日のことなんだ?」
流石にそこまで詳しいことはわからない。カレンダーとか何か日付を特定できるものを見ればはっきりするのだが、生憎ここは外だ。
けれど、季節が夏だということはわかった。何故なら、門の近くに青紫色の紫陽花が綺麗に咲いているし、何よりこの夜の暑さは夏特有のものだからだ。
「でも、あの変な立て札はないな……」
紫陽花を掻き分けても、例の奇妙な立て札はない。昔はなかったのだろうか。
「まあ、家の中に入れば、日付くらいはわかるだろう」
思い立ったが吉日だ。
さっそく行動に移そうとしたその時、何処から足音が聞こえてきた。
突然のことに、とっさに草太は門の陰に隠れる。そして、そっと辺りの様子を窺った。
ゆっくりとだが、確実に足音はこちらに近づいてくる。草太は眼を見開いて、足音が聞こえてくる方をしかと見つめた。すると、何やら白いものがぼんやりと暗闇の中に浮かび上がった。
「ゆ、幽霊!?」
思わず草太の口から素っ頓狂な声が出た。
彼の視線の先に現れたのは、真っ白な着物を身に纏った一人の少女だった。
ごくり、と生唾を飲む。暑さとは別の汗が首元を伝っていった。
けれど、草太はすぐさま自分の考えを否定した。