小説

『ビルの木』早乙女純章(『注文の多い料理店』)

「ぎゃあああああ!」
 雷のような、ものすごい二つの悲鳴が『トカイの森』中に響き渡りました。
 けれども、『トカイの森』はそういう悲鳴は慣れているのか、顔色一つ変えず、忙しく普段の営みを続けていました。

『トカイの森』の外では、男の子が土に植えた『みどりの木』の種に水をあげていました。
「ぎゃあああああ!」という大きな悲鳴を聞いて、何事かと立ち上がり、森の中を見ました。
 とても恐ろしいことが森の中で起こったようでしたが、男の子は、すぐにまた植えた種に水をあげていきました。
『みどりの木』は葉っぱをすべて取られてしまったために、ずいぶんたくさんが枯れ木になっていました。
 男の子は、残された『みどりの木』が寂しそうにしているのを見て、地面に落ちていた『みどりの木』の種を一粒見つけて、地面に植えていたのです。
 翌日、『みどりの芽』が地面から顔を出すと、男の子は旅立ちました。

『トカイの森』に、また『ビルの木』が一つ増えました。
 そして、『トカイの森』を目指して、まだまだたくさんの若者が歩いてきます。
『トカイの森』は『みどりの木』を飲み込んで、どんどん大きくなっていきます。

 

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