小説

『ビルの木』早乙女純章(『注文の多い料理店』)

 箱といっても、物置きほどもある大きな箱です。
『ビルの木』とは明らかに異質の光を放ち、扉が一つありました。
「『ビルの木』とは違う。こいつぁ本物だな。ついてるぜ」
「ああ、こうもかんたんに鉄の箱が見つかるなんてな」
「やっぱりよ、おれたちが誰よりも優れてる証なのかもな」
「そうなんだろうな。運も味方に付けられるんだもんな。神様もおれたちが成功することを期待してくれてるってことだ」
「おれは神なんてものは信じねえけどな。信じるのはいつも自分の力だ。誰もがおれたちにひれ伏す絶対的な力ってやつをこの手に持ってるんだ。ほら、行こうぜ」
「よし、行こう。神をもぶっとばす名誉と地位を手に入れるんだ」
 二人は飛ぶように走って、鉄の箱の扉の前にたどり着きました。
「よお、鍵はかかってない。扉が開くぜ」
「おっし、おれたちの成功は近い。入ろう入ろう」
 二人は互いの背中を押すように中に入っていきました。
 二人の様子を遠くで眺めていた男の子は、すっかりつまらなくなって、『みどりの木』の方へ歩み寄っていきました。

 鉄の箱の中には何もありませんでした。
 鉄の壁が四方に立っています。ただの四角い空間です。
「なんにもねえな」
「誰もいねえな」
 

1 2 3 4 5 6 7 8