小説

『ビルの木』早乙女純章(『注文の多い料理店』)

「おうよ。そんでもって『トカイの森』を支配する権力者に成るんだ。更にその上には……よしっ、こうしちゃいられねえ。おれたちの出世街道の始まりだ」
 二人はまた外に駆け出していきました。
『くるま』の走っていく道を縫うように横断して、『トカイの森』から出ると、『みどりの木』によじ登って、みどりの葉っぱを抱えられるだけ取りました。
 二人はまた『トカイの森』に戻って、鉄の箱の中にみどりの葉っぱを置き、また外へと出ていき、葉っぱを持ってくるのでした。
 二本の『みどりの木』はすっかり葉っぱがなくなって、枯れ木のようになってしまいました。
「どうだい、もうこんなに集まったぞ」
 鉄の箱の中は、もう床一面葉っぱで埋め尽くされました。背中から思いきり飛び込んでも、葉っぱがクッションになってくれます。
「一時間でこれだけできるんだ」
「さすがはおれたちだ」
 二人はパンと音を立てて手を合わせました。ほっほっと顔を赤くさせ、得意気です。
「一日のうちに、この箱を『ビルの木』に変えてしまおう」
「おう。おれたちならできる。一日、一本ペースでいけば『トカイの森』の一番になるのも夢じゃなくなってきたな」
「言ってるだろ。最初からおれたちにできないことはない」
 二人はまた外に出て、せっせとみどりの葉っぱを抱えてきては、鉄の箱に入れるのでした。
 

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