小説

『ビルの木』早乙女純章(『注文の多い料理店』)

「いや、ちょっとあれ」
「なんだよ、どれ?」
 目をこらしてみると、金のプレートが一枚、壁に掛けられています。
 何か文字が刻まれているようなので、二人は近寄って見てみました。

 この中に入った方。どうかあなたのお力で、外からみどりの葉っぱを集めて、
 この鉄の箱を『ビルの木』に成長させてください。
 報酬はきちんとお支払いたします。

「へえ、こりゃあ驚いた」
「この鉄の箱が『ビルの木』になるんだな」
「周りの『ビルの木』も、もともとはこんなような鉄の箱だったんだろうな」
「さしずめ、ビルの芽ってとこか」
「きっとみんな箱の中で働いて、『ビルの木』をどんどん増やしていったんだよ」
 二人は顎に手を当てて、ほほぅと感心しました。
「報酬は払うって書いてあるしさ、おれたちは、こん中でばりばり働こうぜ」
「だな。森の外から葉っぱを運んでくればいいだけなんだからな」
「周りに負けちゃいけないぜ。外には一杯『ビルの木』が立ってた。それだけたくさんの報酬をもらった人間がいるんだ。負けられねえぜ。おれたちがよ、もっともっと『ビルの木』を増やしていくんだ。そんでよ、この『トカイの森』でもっともできる奴と評されるようになるんだ」
 

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