小説

『蛤茶寮』水里南平(『蛤女房』)

 私は、彼女たちに何かをしてやりたいと思い続けていたが、断られてばかりだった。もっとも、断るのは浜実で、彼女は、私と他の子たちが話すのさえ嫌がった。
(ヤキモチだろうか?……やはり『蛤女房』を地でいくのか?)
 彼女が、未だに私を「ご主人様」と呼び、主従の関係を崩さず、頼ろうともしない。それは、私が彼女と男女の関係を一度も持っていないこと。そのことへの暗黙の抗議なのかも知れないと考えてしまった。
(彼女と?……)
 私は、この妄想を打ち消した。

 そんなある日-
 1人の女性が、店を訪ねてきた。その女性は、浜実と長々と話をした。そして、浜実が私の元へ……
「ご主人様、お願いがございます……」
「私にできることなら何でもする。遠慮なく言いなさい」
「はい。私の仲間が、汚れた海で苦しんでいるそうです。これを助けてはいただけませんでしょうか?」
 彼女をここに住まわせる以外の、初めての願い事である。私は無条件でその願いを聞いた。
 人数は30名ほど。余談ではあるが、男性もおり、彼らはみんな色白で筋肉質ということであった。男性に関しては、調理をしないようにお願いをした。
「それだと、ここでは手狭だな。新しい店を作ろう」
「よろしいのでございますか?」
「資金はある。足らなくとも、これだけ賑わっている店なんだ。銀行が融資をしてくれるだろう」
「ありがとうございます」
 彼女が、深々と頭を下げる。
 

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