小説

『鬼の誇りの角隠し』メガロマニア(『桃太郎』)

「桃太郎さんはいますか?」
「いいえ、ここにはわたし一人よ」
「ここは桃太郎さんの家ではないのですか?」
「もちろん、桃太郎さんの家よ。お爺さんとお婆さんが亡くなってから、桃太郎さんは旅に出たの。
わたしはその間、家を任されたのよ」
おかしい。
桃太郎の匂いはこの家以外からはしない。
桃太郎がどこかにいるならば、この家以上に強い匂いを放っているはずだ。
それを鬼一が見落とすはずは無かった。
「ねぇ、あんたも桃太郎さんに憧れて来たんでしょう?」
本当は殺しに来たのだ。
「桃太郎さんは、今どこにいるかわかる?」
女は少し呆れた顔をした。
「さあ、あの人も雲みたいな人だからね」
「・・・・そう」
鬼一は女に背を向け歩き出した。
鬼一の背中に声がかかる。
「ねぇ、この村を見た?」
見ていないはずがない。
鬼一もこの島に着いてから様々な村を見てきたが、この村ほど豊かな村を見たことがなかった。
「この村は大きな家が多いでしょう?畑もぜんぶ村人個人の物なの。それもこれも、桃太郎さんが鬼ヶ島から持ち帰った
金銀財宝を村の人たちに分け与えたからなの」
女はそれが自分の自慢であるかのように村を見渡した。
「みんな、桃太郎さんには感謝しているわ」
そんな話など聞きたくない。
鬼一は再び歩き出す。
しかし、また足を止める。
聞きたいことがあったのだ。
「桃太郎さんは、鬼のことをなにか言っていた?」
「う~ん、そうね。特別、なにか言っていたような記憶はないわね」
 

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