小説

『鬼の誇りの角隠し』メガロマニア(『桃太郎』)

その他に見間違う事なきその鳥は、鬼ヶ島で見たキジそっくりだった。
「母だって?お前は鬼退治をしたキジの子供なのか?」
「そうさ」
「お前の母はどこにいる?」
「だから、母はいないよ」
鬼一はキジに跳びかかる。
キジの止まっている枝まで五メートル近くの高さがあったが、鬼一はわけなく跳んだ。
しらばっくれるなら身体に聞くだけだ。
鬼一の爪がキジの頭に差し掛かったっと思った時、キジは寸でのところで飛び上がり、先ほどよりも高い枝に止まった。
「やれやれ、母の言っていた通り、鬼とは野蛮な生き物だな」
「うるさい!降りて来い!」
「馬鹿な鬼に教えてやるよ。まあ、信じるか信じないかはお前の自由だがな」
「この野郎!」
そうしてキジは鬼一の怒りなど無視して語りだした。
「母は死んだ。母はお前が言う通り鬼退治をしたキジだ。鬼退治を終え船に戻る前に桃太郎は母に言ったそうだ。
『空を飛ぶ者にしか見えない景色がある』と。そうして母は鬼ヶ島を一周した。鬼の生き残りがいないか調べるためだ」
吐き気がする。
また吐き気だ。
瀕死の状態で倒れている兄の眼にくちばしを突っ込み、眼球を引き千切るキジの姿が目に浮かんだ。
「島を半周した時、死体の中でうごめくものを見つけた。近づいてみると、まだ幼い小鬼が母親であろう死体にしがみつき、
『お母さん』と繰り返し叫んでいた。母が生き残りがいることを桃太郎に伝えに行こうとした時、小鬼の母を呼ぶ声がピタリと
止んだ。母が戻ってみると、母鬼の手だけが動き、小鬼の口を塞いでいたそうだ。
母鬼は犬に喉を食い破られ、桃太郎に心臓を貫かれて間違いなく死んでいるはずだったんだ」
鬼一はごくりと唾を飲む。
「それを見た母は桃太郎のもとに戻ると報告した。生き残りはいないとな」
「・・・・・」
「母はよく言っていたよ。わたしは桃太郎を、仲間を裏切ったのだと」
キジの表情は暗かった。
まるでこの話をするのが苦痛であるかのようだった。
 

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