小説

『鬼の誇りの角隠し』メガロマニア(『桃太郎』)

「私が知っている母はいつも屈託していた。笑っている時も、どんなに楽しい話をしている時も、母は屈託していたんだ」
キジはくちばしを歪めて笑った。
「だから、うれしいよ。母を苦しめた、母を屈託に追いやった鬼の子を殺せるのだから」
キジは空を舞った。
そして爪を立て、一直線に鬼一に向かって突進した。
無駄なのだ。
いくら鬼一がまだ小鬼だとしても、キジ一羽で鬼を殺せるはずがなかった。
鬼一は向かってきたキジを払い落とし、地面に叩きつけた。
地面に叩きつけられたキジは羽が折れ、くちばしから血を流していた。
鬼一はキジを見下ろす。
「僕が殺したかったのは、お前じゃないんだ」
キジはまた笑った。
「お前は鬼退治をしたキジに命を救われたんだ。どうだ?屈託したか?」
そうしてキジはそれきり動かなくなった。
鬼一が森を出た時、森からキジが一羽減った。
ただ、それだけのことだった。

夏は季節の終わりを告げるため、村に秋風を吹かせた。
桃太郎の村はすぐに見つかった。
桃太郎の匂いをもとに探すのはもちろんだが、道行く人々に桃太郎の村を尋ねると知らない者はいなかった。
その村は豊かに実った畑が広がり、村に並ぶ家々は大きなものが多かった。
鬼一は桃太郎の家を目指して歩く。
心臓が高鳴っているせいか、歩調が早くなっているような気がした。
そして、一軒の小さな家へと辿り着いた。
周りには大きな家が並ぶ中で、この小さな家が本当に桃太郎の家なのかと思った。
鬼一は戸を叩く。
女の高らかな返事が返ってきて、戸が開かれた。
出てきたのは若い女だった。
人々の話では、この家は桃太郎の実家であるらしかった。
出てきたのが、爺さんでも婆さんでもないということは、この女は桃太郎の嫁なのかもしれない。
 

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11