「ま、待ってよ美月ちゃん」
――正直、美月の新パパみたいなのが来たらあたしも引くな。
継父の情けない声を聞いて、ユキの言葉が蘇る。なんで私がそんなこと言われなきゃいけないのよ。私だって、好きでこの人の娘になったわけじゃないのに。
「娘扱いしないで下さい」
振り向きざまに言い放つと、彼は大ぶりの肩をびくりと竦めた。
「だ、だって、僕たちは親子じゃ……」
「母とあなたが勝手に結婚しただけです。私まで巻き込まないで」
「そんなあ……」
困り果てたような賢治を見て、美月の何かに火がついた。それは浮気をした実父への憎悪だったかもしれないし、意気地のない賢治への嗜虐心だったのかも知れない。
「あのさ、僕、悪いところがあったら直すからさ。家族になりたいんだ。美月ちゃんのお父さんになりたいんだよ」
「……じゃ、鏡見たらどうですか」
「へっ?」
とびきりの嫌味も間の抜けた声で返され、美月はさらにいきり立った。
「私の友達のお父さん、あなたより年上ばっかりだけどみんなもっとシュッとしてて格好良いですよ。父親面したいなら、先に自分のことなんとかしてください」
言い切って、なぜか美月は心がチクリと痛んだ。けれど私は悪くない。ユキに『引く』と言われた私の方が、きっと可哀想なはずだ。
「……そうかあ……ごめんね」
さっきと同じ穏やかな、けれど気落ちを隠し切れていない声。
「僕、頑張るよ」
美月はその声に答えることなく、階段を上って自室に向かった。
***