小説

『かぐや姫へ、愛を込めて』メガネ(『かぐや姫』)

「僕たちのかぐや姫。どうか嫁いでいくところが、最高の場所でありますように。故郷を懐かしむ暇もないほど満たされますように」
 会場から温かい拍手がわき上がる。柔らかな雰囲気に包まれて、誰もが手放しで彼らを祝福していた。高砂席の新郎も、そっと美月の肩を抱き寄せる。夫に顔を向けた彼女の表情は、幸せそのものだ。

 賢治は未だ、気取った格好で頭を下げていた。
 妻が、彼の震える背に手を添える。
 伏せられたままの顔が涙でぐしゃぐしゃになっていることに、気付く人は少なかった。

 

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