「この魚は今はまだ小さいですが、育てれば日を追うごとにどんどん大きくなります。大きくなった暁には食べてもよし、売ってもよしの大変価値のある代物ですよ」
そう思うのであれば自分で育てればいい話なのだが、こぶの爺さんはもう投げやりだ。
「勝手にせい、わしゃ知らん。好きなようにしろ」
そう諦めると、猿は「では遠慮なく」と狸御一行の群れの中へと紛れ込んでいった。
やり切れない欲張り爺さんのもどかしさは頂点に達する。
「ちくしょう。だったらわしもじゃ」
そう言って酒に突進していき、群がる連中を掻き分けていく。
「おい、ずるいぞ」
それに負けまいと後に続くのは、こぶの爺さんだ。
こうなってしまってはもう後には戻れないと感じた鬼が、その集団に紛れ込んでいくのはごく自然な流れだったのかもしれない。
接待の話はどこへやら、その宴は盛り上がりを見せていた。酒に身を任せ、唄っては踊り、踊っては唄い、その宴の騒がしさは近くの町まで漏れ聞こえる。
迷惑そうに白い目で見る人が大半を占める一方で、なにやら楽しそうな雰囲気を嗅ぎ付けてきた町の不良達が一人、また一人と集まってきた。そしてその誰もが宴の中に吸収されていく。時間と共にそれぞれの間に存在していたはずの垣根は取り払われ、それに伴って盛り上がりは加速度を上げていった。
爺さんも狸も猿も町の不良達もそれから鬼も、分け隔てなく目一杯にその時間を共有し、楽しんでいた。となれば宴が夜明けまで続いたということは言うまでもない。
そして、一度その魅力を味わってしまうと、なかなか止められるものではなく、宴は連夜続けられることとなった。人が人を呼び、それぞれが酒や食べ物を持ちよっては集まり、その規模は日を追うごとに拡大していく。三日目ともなると、海辺を埋め尽くすほどの人で溢れかえり、これまでにない一大イベントと化していた。