「言ったじゃろう、わしらはならず者。邪魔者扱いされるのは当たり前じゃ。そんなわしらと一緒にいるおまえさんが同類とみなされることも、それもまた当然じゃ」
そう笑って鬼の肩を二回、軽く叩く。笑った顔がどこか寂し気で、その表情に鬼の怒りはどこかへスライドするように消えていった。現実はもどかしく、残酷だ。
「まぁいいではないか。こうやって無事に酒は手に入ったんじゃ。わしは文句ないぞ」
そう言ったのは欲張り爺さんだ。その割り切りは決して強がりではない。既に腹をくくっているのだ。
その時、何かが近づいてくる気配を感じた。目を向けると、そこに現れたのは悪名高き狸御一行だった。何をしたのか詳しいことは知らないが、悪さばかりをして村の人々を困らせていると近頃巷で話題となっている輩集団だ。
すると、背中に痛々しい大きな火傷の痕のある一匹の狸が、一行の先陣を切って二人の爺さんと鬼の元へと向かってきた。と思いきや横を通り過ぎ、山積みになった酒に手を伸ばす。
「いいモノ発見。ちょいと頂くよ」
「おい、おぬし何をしとるんじゃ」
険しい形相で声を荒げる欲張り爺さんに、狸は背を向けたまま言う。
「こんなにいっぱいあるんだからいいだろ? どうせあんたらだけじゃ、この量は飲みきれないだろ。酒は大勢で飲んだ方がうまいぜ」
狸は蓋を開け、悪びれる様子もなく豪快に酒を喉に流し込む。それを合図に御一行の他の連中もその狸に続いていった。
「やめんさい。その酒はわしらが飲む為のものではないんじゃ」
止めに入ろうが、勢いの付いた連中にそんな言葉はもう耳に入らない。山積みになった酒に群がる連中の姿に二人の爺さんは頭を抱える。
さらに追い打ちを掛けるように背後から近寄ってくる影がもう一つ。
「良ければ、この魚とそこにある酒を交換しませんか?」
影の正体は猿だった。小さな魚をこぶの爺さんに差し出している。