小説

『悪者たちの竜宮城』ききようた(『桃太郎』『こぶとり爺さん』『花咲じいさん』『浦島太郎』)

 しかし、何かを思い付いた様子の欲張り爺さんは表情を一転させる。
「つまり、亀に気に入られればいいってことじゃな」
 嫌らしさを感じた鬼は身構える。
「よし、ありったけの酒を用意するとしよう」
 こぶの爺さんはすぐさまその意味を察し、腰を上げる。
「接待しようって魂胆じゃな。それなら早速、町に出ようではないか」
 思い立ったら即行動。その姿勢は見習うべきことかもしれないが、何かが間違っていることは間違いない。鬼がそれを受け入れるには、理解と整理の為の時間が必要だ。しかし、その時間を与えてはくれない。
「ほら、おまえさんもいくぞ」
 そう急かされた鬼は言われるがまま、二人の爺さんの後を追うしかなかった。

 酒を買うには苦労を要した。いくつもの酒屋を回り、あるだけの酒を買い占めた。それを両腕に抱えているものだから、いくら力自慢の鬼とはいえ、腕はもうパンパンだ。
 しかし、苦労したのは何も肉体的なことだけではなかった。どの酒屋でも扱いは実にぞんざいで、まるで下等なものを見るかのような対応だった。中には酒を売ってもらえない店まであった。二人の爺さんが以前、自分たちの事をならず者と言っていたが、鬼はこの時初めてその現実を目の当たりにしたのだった。その精神的ダメージは肉体的ダメージを凌駕する。
 海辺に戻った鬼は憤慨していた。
「なんなんだ、あの態度は」
 肌の色が元々赤い鬼からは窺い知ることができないが、人間であれば顔を真っ赤にしていることだろう。そんな鬼をこぶの爺さんが宥める。
 

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