二人の爺さんは然も当たり前のように言ってのける。どのような人生を送ればこんなお気楽に生きられるようになるのだろうか、鬼は不思議でならない。そんな哀れみ目で二人の爺さんを見る鬼であったが、一方でわずかに羨んでいる自分にも気付いていた。
「どうじゃ? ここで一緒に竜宮城を目指さしてみないか? どうせ鬼ヶ島に帰っても、ろくな人生を送れないじゃろ」
言われる通り、鬼ヶ島にあるものは憂鬱な日々だけだ。竜宮城を目指すと言っても何をすればいいのか見当もつかないし、行ける保証がないどころか可能性はゼロに近い。それでも、鬼ヶ島で余生を過ごすくらいならこの場所で無駄な夢を見ながら過ごす方がずっと魅力的かもしれない。
思考の余地はなかった。こうなりゃもうやけくそだ。鬼は人生の分岐点となるであろう決断をその場で即決した。
こうして二人の爺さんと鬼の共同生活が始まった。昼間は海辺で亀が現れるのを待ち、夜になれば近くの海辺を見渡せる小屋へと移動して監視する。そんな日々を繰り返しだ。とは言っても何をするわけでもない。冬の間は焚火にあたり、春が過ぎる頃には気持ちのいい海風を感じながらのどかな時間をただただ過ごすだけだ。
海辺はいつしか梅雨を越え、夏を迎えていた。そんなある日の事。きっかけは鬼のふとした疑問だった。
「ちょっと思うんですけど、亀が現れたとして、我々を竜宮城に連れて行ってくれるんですかね?」
二人の爺さんは意味を理解できずに、きょとんとしている。
「だって浦島という人が竜宮城に行けたのは亀を助けたからですよね? 何もしないで連れて行って貰おうなんて、そんな虫のいい話はないでしょう。何かそれに値するようなことでもしない限り無理だと思いますが……」
二人の爺さんは目を丸くした。間抜けなことにどうやら、その事について考えたことはなかったようだ。