「鬼ヶ島に居る意味もないように思えるのじゃが」
反論の余地はない。確かに鬼ヶ島にあるものといえば、せいぜい小馬鹿にされる毎日くらいなものだ。
すると、こぶの爺さんがこれまた奇妙なことを言い出した。
「竜宮城って知っているか?」
「リュウグウジョウ……ですか?」
鬼は頭の中の記憶からその単語を探った。しかし、いくら探ろうともどの引き出しにも存在しない。
「知らないのなら教えてやろう」
二人の爺さんは、同時に笑みを浮かべる。
「かつて浦島太郎と言う男がおったそうじゃ。ある日、海辺で子供にいじめられておった亀を助けたところ、助けらえた亀はそのお礼にと浦島をある場所へと連れて行った。その場所こそが竜宮城じゃ。それはもう極楽のようなところだそうな」
二人の爺さんはその非現実的なおとぎ話を妄想し、まるで純粋な子供であるかのように目を輝かせる。
「それがどうしたのです?」
「浦島が亀を助けた場所。それがこの海辺じゃ」
鬼は「へぇー」と感心した様子を演じる。そして思う。だからどうしたという話だ。
と、鬼の頭にある推測がよぎる。改めて二人の爺さんの顔を見ると、嬉しそうに薄気味悪い笑みを浮かべていた。ということはつまり……。
「まさか、その竜宮城に行こうとしているつもりですか?」
「そうじゃ。わしらはこの海辺で亀が現れるのを待っている」
……愚かである。本当にその竜宮城とやらの存在を信じてしまうなんて能天気にも程がある。いや、能天気という言葉では控えめ過ぎるかもしれない。
「何をそんな顔をしているのじゃ。行きたいと思わんのか? 竜宮城に」
「行きたいか、行きたくないかって聞かれたら、それは行きたいですけど」
「それみろ」