小説

『悪者たちの竜宮城』ききようた(『桃太郎』『こぶとり爺さん』『花咲じいさん』『浦島太郎』)

「甘い考えだと思うんじゃけどな」
 そう懸念を示すも、やはりこぶの爺さんも欲張りの資質を兼ね備えているようで、共鳴した二人の爺さんは力を合わせて鬼を小屋へと運んだ。

 数日後の海辺。二人の爺さんはまたも海辺で佇んでいた。以前と異なるのはその横に鬼がいるということだ。
「なかなかいいやつじゃねぇか。人は見掛けで判断するものじゃねぇな。いや、人ではないか」
「すいません、こんな見た目をしているばっかりに」
 鬼は謙虚に答える。親しげに話す人間の爺さんと鬼の友好的な交流は、なんとも異様な光景である。
「おまえさんも一つどうじゃ? うまいぞ」
 こぶの爺さんは何かを差し出すが、鬼は苦々しい表情でそれを拒否する。
「いや、結構です。どうもそれだけは体が受け付けなくて」
「嫌いか? うまいのに」
「好き嫌いの問題ではなくて、きびだんごにはあまりいい思い出がないんです」
 それを受けて、すぐさま割り込んできたのは欲張り爺さんだ。
「それなら私が頂くとしよう」
 こぶの爺さんの手中にあるきびだんごを奪い取り、口に放り込む。そして、ここぞと言わんばかりに鬼に問いただす。
「ところで鬼さんよ。わしらは傷だらけのおまえさんを介抱したわけじゃよな」
 そこまで言ったところで、一度鬼の様子を窺い、そして続ける。
「要はじゃな、一応助けたわけだからお礼の一つでもあっていいんじゃないかな、なんて思ったりするのじゃが……」
 図々しい欲張り爺さん主張に、鬼の表情はあからさまに曇っていく。
「すいません。お礼をしたい気持ちは山々なのですが、お礼できるものが何もありません」
「どうしてじゃ? おまえさんは鬼じゃろう。だったら人々から略奪した財宝なんて余る程もっているはずじゃないのか?」
 鬼は遠い過去を見るように海を眺め、嘆く。
 

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