「おい、お前ももっと自然体でいろよ」
彼の自己犠牲的な振る舞いに、私は次第にばつが悪くなってきた。ピエロ以外の私たちは相変わらずの利己主義である。彼の親切は誰からも顧みられず、誰の心も感化せず、ただピエロが哀れに見えた。
「好きでやっているんです。自然と、助けたくなってしまうんです」
ピエロは明るく平然と答えたので、私は呆れた。
そのとき、人間がディスプレイごしに私たちをのぞき込む気配がした。きゃんきゃんと声の通る、女子高校生の三人連れであった。さんざんと自分勝手に品定めをしたあと、どうやらマシンをプレイすることにしたようだ。彼女らが目をそらした隙に、ピエロはいつもの如く己が身体をもぐらせようとした。
「待てよ、たまにはお前さんも上にいろ」
やや手荒く彼の長い耳を掴み、私はピエロを自分のとなりに引き寄せた。
女子高生はマシンに百円玉を投入する。安っぽい電子音が鳴り、頭上のライトがちかちかと点滅を始める。ディスプレイの中の私たちの間に、一気に緊張らしきものが走る。全神経を集中させ、人間たちの会話、ボタンを押す手指の動き、そして蜘蛛の糸の行き先に己の運命を祈る。
百円玉を投入した女子高生は、傍らの友人にこう言った。
「あの、どぎついうさぎを狙うわ」
若い女の声は、マシン内の我々全員聞き漏らすことがなかった。ピエロはあきらかに狼狽していた。
モーター音をうならせ、私たちの待ち焦がれた糸が動き始めた。私はというと、何も考えまいとした。いつもはじれったいほどの思いで糸の動きを見つめるのに、今はあんな物見たくなかった。あの糸は隣に横たわるピエロ目がけて降りてくるのだろう。降りてきたとき自分が何をしでかすか、恐ろしかった。せめて無心にこの場をやり過ごせることを願った。