小説

『ピエロと蜘蛛の糸』阿倍乃紬(『蜘蛛の糸』芥川龍之介)

 私たちのすすけたディスプレイの中にも、久しぶりの新顔がやってきた。うち一体は、長い耳と丸い尻尾からしてうさぎとすぐに分かった。私は愛玩動物が嫌いだと先述したが、この新顔にはすぐに同情心と、そしてげすな親近感を覚えた。
 このうさぎらしき新入りは、身体全体のかたちは細かな複数のパーツから組み合わさった立体的造りであったが、可哀想なことに、一つ一つのパーツの色の取り合わせが恐ろしくちぐはぐだった。上からなぞっていくと、耳は前後で黄色と赤の組み合わせ、頭部は右目側が黄緑と左目側がターコイズブルー、腹はオレンジで背中は茶色、やせた手脚は黒く、手首足首から先はショッキングピンクである。産みの親たる制作者が何を思ってこんなに露悪的な取り合わせをしたのか、私にはまるで理解できない。おまけに大きな口からはフェルト製の前歯が乱暴に生えており、歪な存在感を醸していた。この新入りは、そう簡単に人間にもらわれたりしないだろうと思われた。憂うべき来し方とままならぬ行く先を語り合い、甘くも哀しい傷の嘗め合いを楽しめそうだと考えた。
 やがて夜が更け、まぶしい蛍光灯が一斉に消えた。耳障りな電子音も止んだ。楽しみにしていた営業終了だ。
「よう、元気か」
「はい。どうも、初めまして」
 顔色は悪いくせに、声ははつらつとして若かった。
「第一日目が終わったわけだが、どうだ、感想は」
「はあ。今日はずっと緊張していて、正直、これといった感慨は浮かびません」
 少し気恥ずかしそうな声色で、彼は答えた。
「緊張するのか、こんな所にいるだけで。まあ、三日経てばすぐに慣れるよ」
「そうでしょうか。毎日どのぐらいの人が、僕らを見に来ますか」
「数えているわけじゃあないが、そんなにはいないよ。通りすがったって、ちらっとも見ない奴もいるしな。だから、三日もいればすぐ飽きがきちまうのさ」
「そうですか。僕、落ち着いたところが好きなので、その方がありがたいかもしれません」
「そいつはいいね」
 

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