小説

『ピエロと蜘蛛の糸』阿倍乃紬(『蜘蛛の糸』芥川龍之介)

 その後も会話を続けたが、その折り目正しく明るい受け答えが私には少々鼻についた。この若者の口から、もっと無気力で気持ちのささくれた言葉が聞きたくなった。大人げないとは思いつつ、私は意地悪な言葉を投げかけた。
「あんたは、それにしてもすごい身なりをしているな」
 若いうさぎははっとしたような顔をして、のどを詰まらせややうつむく。
「そうですよね」
 しょんぼりした声に、私は自分の無遠慮でとげのある言い方を恥じた。自分のひねくれた心に、純朴な若者を共鳴させようとしたことが虚しくなった。
「まあ、似たような奴がいないってのは、いいことだ」
 自分の発言をごまかすつもりで、話を締めくくろうとした。すると若者は顔をしゃんと上げ、明るくはきはきと答えた。
「ありがとうございます。身体はびっくりするような色ですが、この立派な前歯だけは僕の自慢ですよ」
 自慢の前歯も正直私にはグロテスクに思われたが、余計なことは言うまいと決めた。この若者は穏やかで害がなき者かもしれないが、多少変わっているし自分とは気が合わないだろうと思った。
 若い新入りうさぎは、その奇抜な色からピエロと呼ばれるようになった。誰が呼び始めたあだ名か知らないが、彼はピエロの名を気に入ったようだ。
 私の第一印象通り、ピエロは変わった奴だった。ある日ピエロは、足下でくちゃくちゃになっているライオンに声をかけた。
「ライオンさん。ちょっとたてがみを触ってもいいですか」
 ライオンは面食らい、次に少し顔を強ばらせた。
「俺のたてがみに何の用だ。引っこ抜いたりしたら、ただじゃおかないからな」
 引っこ抜こうにも、彼の顔周りは元々不毛地帯に近く、フェイスラインがはっきり見て取れる程だ。
 

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