小説

『ピエロと蜘蛛の糸』阿倍乃紬(『蜘蛛の糸』芥川龍之介)

 ややあって、女子高生の黄色い声が耳に飛び込んできた。
「とれた、とれた。嬉しい」
「あんた、センス悪いわ。こんなうさぎ欲しがるなんて」
「可愛い顔しているのよ、よく見て。私に取られて嬉しそう」
「そうかしら、私は寂しそうに見えるわ。お友達とはぐれてしまったからね」
「うん、それは可哀想よね。あなたがこの子の友達を取ってあげてよ。そうね、隣にいたあのふくろうはどう」
 再び、マシンの中に緊張が走る。
「いいわ、ふくろうを狙うわ」
 私もまたピエロのように、自分がひどく狼狽するのを感じた。
 コインがマシンに入れられる、固い音が聞こえた。

 

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