小説

『メロスの友』米山晃史(『走れメロス』)

 だが、メロスはこの街に来てすぐに、行動に移した。王のしている事はおかしいのだと、このまま放ってはおけぬと、自らの危険を顧みず、城へと乗り込んだのだ。やり方は賢くなかったかもしれないが、あの王の事、どのような方法をとったとて、結局は磔にしようとしただろう。セリヌンティウスは、昔からそんなメロスに憧れと尊敬の念を抱いていた。自分には決して出来ない事をやってのける友を、誇りに思っていた。
 だが、同時に恐れてもいた。その真っ直ぐさが、いつかメロス自身の身を滅ぼすのではないか。そして、その不安は現実のものとなってしまった。
 王城で二年ぶりに再会した二人は、堅く抱擁を交わした。友と友の間には、それだけで充分だった。
「すまない。君を巻き込んでしまって……」
「いや、いいんだ」
 セリヌンティウスは縄を打たれ、代わりにメロスが解放される。
「待っていてくれ。必ず戻ってくる」
 友の言葉に、セリヌンティウスは無言でうなずく。そして、満天の星の下、メロスはすぐにシラクサを出発した。
 残されたセリヌンティウスに、王ディオニスは不思議そうに問いかける。
「なぜだ、セリヌンティウス。やつが戻ってこないと分かっていながら、どうして身代わりになった」
「いいえ、メロスは必ず戻ってきます。彼は約束を絶対に守ります。そういう男なのです」
「やつが村に帰り妹の顔を見たら、きっとその気も失せるに違いない。せっかく助かった命だ、再びむざむざと奪われに戻るとは思えん」
 メロスは妹の結婚式を挙げるために村に戻った。王の言葉を聞き、セリヌンティウスは数日前にメロスの妹アンティアに会いに行った時の事を思い出した。
 

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