小説

『メロスの友』米山晃史(『走れメロス』)

 メロスとセリヌンティウスとアンティアは、幼い頃からずっと一緒だった。共に遊び、共に育った。セリヌンティウスにとって、アンティアは特別な女性だった。だが、三人の関係を壊したくなかった彼は、その思いをずっと胸の奥に隠してきた。いつか立派な石工になったら彼女に気持ちを打ち明け、迎えに来ようと心に決め、村を出てシラクサへとやってきたのだ。
 やがて何年もかけて街一番の石工となったセリヌンティウスは、ついに数日前にアンティアに会うために村へと戻った。
「セリヌンティウス!」
「久しぶりだな、アンティア」
 彼は、懐から美しい細工の施された石の彫像を取り出し、アンティアに手渡した。彼女の顔をかたどった女神の像だ。
「これを君に渡したくて」
「まぁ、ありがとう!女神アフロディテの像ね。私の結婚の事、兄さんから聞いたの?」
「結婚……?」
「ええ。私、もうすぐエウアンドロスと結婚するのよ」
「そうか、エウアンドロスと……」
 もちろん、セリヌンティウスは村で育った友人として彼の事を知っていた。そして、彼がアンティアにふさわしい、真面目な男である事も。
「これを君に……。私からの結婚祝いとして受け取ってくれ」
「嬉しいわ。本当にありがとう」
 帰ろうとするセリヌンティウスを、アンティアが呼び止める。
「セリヌンティウス。どうか兄を……メロスの事を、よろしくお願いします」
「何か気がかりな事でも?」
「私が嫁いでしまったら、兄は家で一人になってしまうわ。それに兄はあの性格だから……何かあった時に、きっと誰かの助けが必要になると思うの」
「……ああ、分かった。心配する事はない、メロスは私にとって一番の親友だ。何があろうと必ず力になるさ」
「ありがとう」
 

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