「……住民票なら前出したのがあるでしょうが。なんで毎回毎回出さなければいけないんですか」
しかし、ついつい口調は怒気を孕んだ大き目なものになってしまう。カウンターの奥に座っている別の課の人間が、こちらの様子をちらちらと伺い始めた。
志藤はというと、一瞬大きく目を見開き、手元の書類に目を落としてから、もう一度こちらをまじまじと見た。なんだ、こいつ、俺のことを知ってるのか。知っていて、この態度とは、良い度胸をしている。
「はあ、住民票は期限がありますので」
「期限?」
「発行より三か月以内しか使えないと―……」
「そうやって貧乏から金を吸い取るのか!」
かっとなって、ついに大きい声が出た。視線がすっと、自分に集まるのを全身で感じる。ぞくぞくと鳥肌が立ち、滑らかに次の怒声が躍り出た。
「こうやって家賃の減額に来てるんだから、苦しいってのはわかってるだろう! なのに何で市はそうやって貧乏人から金を搾り取るようなやり方をするんだ!」
志藤は短く目をつむったかと思うと、「あのですね」と切り出し始める。が、そこにかぶせるように、
「ねえ、世帯構成が変わってない事なんて、そっちで調べりゃすぐわかる事でしょうが!」
とまくしたてる。志藤は少し眉根を寄せて、横に座る若い母親は幼い方の子供を抱きしめ、八代さんはこちらを見ずにやや声を張って「それではこちらにご記入ください」と書類を母親に差し出した。
「だから―……」
「だからも何もないんだよ! わかるんでしょうがって! 前やった時も昔出したコピーで通ったよ!」
「……では、本部に確認いたしますので」
「いやいやいや、その前にあんた分かってんの?」
「はあ」
「はあ、じゃないよ。俺の言うことがわかってんのかって言ってんの!」
「住民票をなぜ前出した内容と変わらないのに出さなければいけないのか、ということがご不満なんですよね?」
「ご不満とかじゃないよ! 何でそっちで分かるものをとらせようとしてるのかって事だ!」
志藤の顔は、だんだんと困惑の色を濃くしていく。それに比例するかのように、俺の声もどんどん大きくなっていっていた。このぼやけた男にしっかりと礼儀を叩き込まなければ。
「だから―……」
「何でわからないんだ!」