小説

『ろうそく心中』木江恭(『赤い蝋燭と人魚』小川未明)

 勝手で非道な男と、言われるやもしれん。本当に、その通りであろう。しかしは、おれの心をわかって、許してくれた。おれたちは、同じところで生きることはできなんだが――同じ心を分かち、同じ傷を負った身なのだなあ。
 だからおれは、死んだらのところへ帰りたい。
 高五郎よ。おれの寝間に、が残した真っ赤なろうそくが置いてある。おれが死んだら、を抱えさせてくれ。そしておれの体は燃したりせずに、木箱に詰めて沈めてくれ。
 それから、海辺で、ろうそくを全部灯してくれ。手間をとらせて本当にすまん。しかし、大きな鬼火を焚かねば、が見逃してしまうかもしれんだろう。
 人魚は、数百年生きるという。おれはこんなしわくちゃの爺になってしまったが、きっとは今頃、美しい女になっておろうなあ。

 ろうそくが赤い光で照らすその遥か向こうで、舟はすいすいと沖へ進んで、やがて棺を海に投げ出した。
 舟は踵を返し、此方の岸に戻り始める。棺は、深い海の底へ沈んでいく。
 舟の後ろで、虹色の尾が波間に光るのを――高五郎は、確かに見たのだった。

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