勝手で非道な男と、言われるやもしれん。本当に、その通りであろう。しかしあれは、おれの心をわかって、許してくれた。おれたちは、同じところで生きることはできなんだが――同じ心を分かち、同じ傷を負った身なのだなあ。
だからおれは、死んだらあれのところへ帰りたい。
高五郎よ。おれの寝間に、あれが残した真っ赤なろうそくが置いてある。おれが死んだら、あれを抱えさせてくれ。そしておれの体は燃したりせずに、木箱に詰めて沈めてくれ。
それから、海辺で、ろうそくを全部灯してくれ。手間をとらせて本当にすまん。しかし、大きな鬼火を焚かねば、あれが見逃してしまうかもしれんだろう。
人魚は、数百年生きるという。おれはこんなしわくちゃの爺になってしまったが、きっとあれは今頃、美しい女になっておろうなあ。
ろうそくが赤い光で照らすその遥か向こうで、舟はすいすいと沖へ進んで、やがて棺を海に投げ出した。
舟は踵を返し、此方の岸に戻り始める。棺は、深い海の底へ沈んでいく。
舟の後ろで、虹色の尾が波間に光るのを――高五郎は、確かに見たのだった。