小説

『天の羽衣』五香水貴(『天の羽衣』)

遠ざかってく男子たちの談笑と、近付いてくる女子たちの黄色い声の狭間で、天音の鞄を開き、ワイシャツに噛んでいたファスナーを解いた。微かに触れた天音の真っ白なワイシャツは、まるで絹のようであり、その質感を確かめるように指を滑らせる。女子生徒たちの甲高い笑い声が鉄製の扉のまさにすぐそこまで迫っているのを感じ、触れていた天音のワイシャツを反射的に抜き取ると、自分のカバンの中に突っ込んだ。プール側からドアノブを回す音が聞こえるのと同時に、女子更衣室から飛び出し、無我夢中で校舎まで走り去った。

 美術室まで戻ると、自分が不在のままでも特に問題はなく授業はお開きになっていた。教師さえ居ない美術室に画材用具を戻し、教卓の上に積み上がっていた提出物の上に、何食わぬ顔で自分の作品を重ねた。三階にある美術室の窓からは、プールの更衣室の出口がよく見える。楽しげにおしゃべりをしながら、やや湿った髪の女子達が続々と建物から出てきていた。その様子をジッと観察していると、人の流れが完全に収まったあと、控えめに開いた扉から天音が顔を覗かせた。扉の外に突き出した上半身はキャミソール姿で、不安そうに辺りをキョロキョロとしている。一度は扉の中に身を戻すも、一呼吸置いてから、キャミソールにスカート、靴下にスニーカーという出で立ちで、天音は更衣室から出てきた。前の学校の鞄を両腕で抱え、小走りで校舎に戻ろうとしている天音を見て、窓の外にグッと身を乗り出した。
 「大丈夫ー!?」

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