許嫁との食事は、いつもどおり味気ないものだった。ある日突然、母が連れてきた不憫な「里」は、物静かで心を読ませぬ娘であった。折角釣ってきた魚を出しても、口にする事は無かった。
「美しい許嫁ができて、幸せでしょう」
と言われたりするが、何を問うても「へえ、まあ」「さあ、どうでしょう」だのと、節目がちに答えるだけで、自分の事すら何もわからぬ様子でいる。
「出かけてきます」
と、早めのゆうげを済ませ、私はいつものように出かける準備をした。
「里がいるというのに、出かけなきゃいけないのかい?」
「お父が逝ってから欠かせた事はないでしょう。いってきます」
里は気配を消し、そこにいるのかいないのかわからなかったが、勝手の方から、かちゃかちゃなる茶碗の音が聞こえた。