部屋に、わらじを編む音だけが響く。雪の晩は、恐ろしいほど静かだ。いつも、この世に一人だけ取り残されたような気持ちになるのだった。
それを破るように、聞きなれない音が近づいてくる。男は作業の手を止め、顔を上げた。
一歩一歩、雪を踏みつぶし歩いてくる。重たい足取りであることは分かった。村人がここまで登ってきたことは一度もない。ましてや、こんな雪の日に旅人が通ることなどないだろう。
正体不明の足音に、男はそっと立ち上がって鉈を手に取る。
家の前で足音はぴたりと止まる。トントン、と弱い力で、戸が叩かれた。
「すみません」
男は拍子抜けする。鉈を手にしたことが恥ずかしくなるほど、弱々しい声だった。
男は鉈を元の場所に戻し、そっと戸を開ける。
「今夜、一晩泊めてくれませんか」
妙齢の女が、震えて立っていた。
「ど、どうぞ」
慌てて彼女を、家へ通す。
「ありがとうございます」
女は目に涙を浮かべて、頭を下げる。
「そんなことは良いから、はやく」